スポーツのトレーニング中に動画を撮影し、自分の動きをチェックするという作業はごく当たり前に行われるようになりました。ビデオカメラよりも大きな画面で、撮影、閲覧が簡単にできるスマートフォンやタブレットが普及したことが大きな要因だと思います。
普段、何となくカメラアプリで撮影して映像を見ているという場合も多いかと思いますが、スポーツの動作をより正確に、詳細に捉えるためにはそれなりの手続きが必要です。スマホカメラの撮影映像で動作分析などを行う場合に必要となる撮影方法について紹介します。
フレームレート
動画は写真を連続的に撮影してそれをつなぎ合わせているイメージになります。フレームレートとは、1秒間に何回、写真=フレームを撮るかの設定値です。単位はフレームパーセカンド(fps)です。テレビ映像などは60fpsで撮影されています。これ以上(通常は100fps以上)のフレームレートでの撮影はハイスピード撮影と呼ばれます。スローモーション撮影の方がよく聞くかもしれません。
30fpsで撮影した場合、1/30秒(約0.033秒)ごとに写真を撮ることになります。このとき、カメラの前(写っている範囲)を0.01秒で通過してしまう被写体は写らない可能性が高いです(運よく写る場合もありますが)。
スポーツ動作は比較的高速で行われます。足先の地面への接地やボールへのインパクトといった、スポーツ動作中の特定の場面はとても短時間に行われます。トップアスリートの疾走中の接地時間は0.08秒程度です。30fpsの例で言うと、計算上は2フレームくらい接地中のどこかの場面が写ることになりますが、接地の瞬間、離れた瞬間が写る可能性はほぼゼロです。スポーツ動作を動画撮影して特定の動きを確認するためには、見たい瞬間を写すために十分なフレームレートを確保する必要があります。
時間 (秒) | 運動 | 推奨 |
---|---|---|
0.60~0.70 | 歩行の接地 | 30fps |
0.20~0.30 | ジョギングの接地 | 60fps |
0.16 | 走高跳の踏切動作 | 70fps以上 |
0.14 | 走幅跳の踏切動作 | 80fps以上 |
0.08 | スプリント走の接地 (男子アスリート) | 130fps以上 |
最近のミドルレンジ以上の機種のスマホカメラの多くはハイスピード撮影に対応しています。iPhoneであれば、8以降のモデルでフルHD解像度の240fps撮影が可能です。Huawei Mate 30 ProではHD解像度(720p)で7,680fps撮影という衝突実験でも使えるようなとんでもない性能を持っています。ひと昔前なら数十万円の実験用カメラ性能だったものが、今はスマホで使えてしまいます。
モデル | 最大フレームレート | 4K動画 |
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iPhone SE~7 | 240fps@720p 120fps@1080p | 30fps ※6以降 |
iPhone 8 以降 | 240fps@1080p | 60fps |
Sony Xperia 1 | 960fps@1080p | 30fps |
Huawei Mate 30 Pro | 7,680fps@720p 960fps@1080p | 60fps |
シャッタースピード
シャッタースピードとは、1フレーム撮影するときに、どれくらいの時間、光を取り込むかの設定値です。前述のフレームレートは動作のある瞬間、ある場面を動画に写せるかどうかに関わる設定値ですが、シャッタースピードは写した瞬間、場面が「くっきりと」写るかどうかに影響する設定になります。
シャッタスピードはシャッターが開いている時間(秒)で表されます。値が小さいほど高速シャッターということになります。一般的には1/100秒のように分数で表され、分母の値が大きいほど高速です。カメラによっては分母の値だけが表示される場合もあります。
下の図は、高速移動している被写体を異なるシャッタースピードで撮影したときに発生する「ブレ」のイメージです。同じ速度で移動していれば、シャッタースピードが遅い(図の右側)ほどブレは大きくなります。
あまりにブレが大きい映像では動きの正確な確認はできません。例えば、膝の角度を知りたい場合に、膝の位置や足首の位置が識別できないと、膝関節の角度も分かりません。また、ボールの移動速度を分析したい場合にボールがくっきり写っていないとフレームごとにボールの位置を見誤る可能性があります。
下の図はシャッタスピードごとにブレの大きさを計算したものです。撮影時のブレの大きさは「被写体の移動速度×シャッタースピード」で計算できます。バレーボールの移動速度は25m/s(時速90km)くらいです。この場合ブレの大きさは、シャッタースピード1/1000秒では2.5㎝、1/250秒では10㎝となります。直径21㎝のボールに対して10㎝ブレてしまうと、どこがボールの実体なのか分からない状態です。くっきりした映像を撮影するためには、対象物の速さに応じて適切なシャッタースピードを設定することが重要になります。シャッタスピード設定の目安としては、人の身体の動きであれば1/250秒程度、用具などの移動には最低でも1/1000秒(多くの場合もっと速い)となります。
シャッタースピードの設定には1つ注意が必要です。シャッタースピードの値が小さい(高速シャッター)ほど、取り込む光の量が減るため、画面は暗くなります。ブレない映像が欲しいからといって、真っ暗な映像になってしまっては本末転倒です。普通照明の屋内環境では1/200秒程度のシャッタースピード設定が限界です。一方、晴れた日の屋外の自然光にように十分な明るさがあれば、1/1000秒などより短い時間の設定ができます。
スマホアプリ
フレームレート、シャッタースピードをマニュアルで設定できるスマホアプリがいくつか開発されています。これらのアプリは露出やISO感度、フォーカスなど各種のカメラ設定をマニュアルで操作可能です。
アプリ名 | 特徴 | 価格 |
---|---|---|
ProMovie Recorder |
フリーで使える操作性の良いアプリ。 |
無料 |
MoviePro |
ビデオ撮影に特化したアプリ。 |
1,220円 |
FiLMiC Pro |
プロも使うビデオカメラアプリの王道。 |
1,840円 |